TiE UP! Vol.1「お好み焼きと出来心」
ー働き方と生き方のデザインヒントを探るー

TiE UP! Magazineは「ハタラキビトと出会い、つながり、動きだす」をコンセプトに、次のチャレンジのヒントを手繰り寄せるためのコンテンツを発信していきます。世の中はたくさんのハタラキビトの仕事によって成り立っています。 ネクタイ専門店「giraffe」もまた一人のハタラキビトの小さくて、でも大きな一歩からはじまりました。胸元に意思を宿した一人ひとりの小さな行動、小さな一歩が大きな変化につながっていく。私たちはその一歩を踏み出す人のためのブランドであり、一人ひとりの意思表示であり、行動です。

新年度がスタートとして1カ月。新しい組織や環境にも慣れて、改めて日々の仕事や、ひいては人生を振り返る余裕もうまれる頃。記念すべき第一回目は、働き方と生き方をデザインするをテーマに、「Tokyo Work Design Week」を主宰する&Co., Ltd.代表取締役 横石崇さんをゲストに招き、公開対談を配信しました。お相手はスマイルズ取締役/CCOの野崎亙さんです。

当日の対談を再編集し、これからの働き方や生き方を考えるためのヒントをお届けします。


キャプション:対談の舞台は、千駄ヶ谷にあるgifaffeの旗艦店「WORK TO SHOP Sendagaya」にて。

リモートによる心のパラダイムシフト

———-  ここ一年でリモートワークが定着しました。仕事の質に変化はありましたか。

野崎:単純に仕事量は増えましたね。正直、半年間はオンラインでのプレゼンや打ち合せに慣れませんでした。リアル大好きで、みんなと話したくて出社していたくらいですから。慣れるとリモート画面越しでも、人の熱量って意外と伝わるものですね。


キャプション:野崎 亙(のざきわたる)
株式会社スマイルズ 取締役/CCO(チーフクリエイティブオフィサー)
京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。3年間で新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。5年間、デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などを担当。2011年、スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、入場料のある本屋【文喫】など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。

横石:オンライン上での熱量の伝え方をつかんだ?

野崎:あるいは、向こうの熱量も受け取れるようになった。

横石:クリエイティブの仕事は信頼がないと成り立たない。ともすれば「ふざけてる?」と言われそうなアイデアを本気でプレゼンしていくじゃないですか。お互いに信頼関係があってこそ提案できるアイデアって、あるはずなんですよ。


キャプション:横石 崇(よこいしたかし)
&Co.,Ltd.代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー
多摩美術大学卒。広告代理店・人材会社を経て、2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発を手がけるプロジェクトプロデューサー。主催する国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。法政大学兼任講師。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

野崎:その通り。僕らのクリエイティブは一見ロジックはあるけど、最後は相手からの与信があってこそ。だからリモート主流になった当初は勘弁してくれよ、と。でもしばらくして、熱量は意外と伝わるしここ一年でハタラキビトに心理のパラダイムシフトが起きてることが分かってきた。

横石:確実に起きていますよね。

野崎:働き方と一緒に心も変わってきた。嫌だと思っていたことが案外いいぞって。

———- 働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」でさまざまなディスカッションをされてきた横石さんはどのような変化を感じていますか。

横石:在宅ワークの浸透率は以前に比べたら増えたのは確かですが、まだまだ都市圏にある大企業が中心ではないでしょうか。世の中では在宅派・オフィス出社派の二極化が進行していて、大企業で在宅ワークする人ほど「あの頃に戻りたくない」という声をよく聞きます。

野崎:物理的に距離ができたことで、上司も上司の意味が問われているなと感じます。部下を管理してるだけで仕事した感が出ていたのが、そうじゃなくなった。

横石:上司からしたら「感じ取ってくれよ」でやれていたコミュニケーション作法が新人には難しいですよね。暗黙知に触れることもなく、カルチャーも分からないですから。そういう意味で、コミュニケーションを取るためにオフィスに集まる流れが先鋭化している企業が増えています。

野崎:新卒の定着率が上がったという話は見聞きします。そうやって距離感が生まれたから何か、“自分のスタンス”を保てるようになったのか。

横石:自分の主観的な価値観を保てるのは、リモートワークの距離感が生むメリットかもしれないですね。

野崎:価値観か。

横石:そうです。“ライフスタイル”というものが、誰かのお手本を参考にした生活なんだとしたら、“ワークスタイル”も同じで、結局誰かのまね事をしてしまいがちです。これからはスタイルではなく、どういう働き方の価値観を持っているのか、といった“ワークスタンス”が問われるんじゃないかと。

個人と組織の在り方と、ワークスタンス

———- ワークスタンスについて詳しく聞かせてください。組織としてのスタンス、その中の個のスタンス、組織と個人のよりよい在り方を探っていきたいです。

野崎:スマイルズのウェブサイトで掲げているのが「事業開発からブランディング、デザインまで、価値になりえるものは、だいたいなんでもやります」。僕らはスマイルズの事業以外にも、外部とのお仕事でさまざまなプロジェクトに携わっていて、本当にだいたい何でもやっています。これはスマイルズのワークスタンス。


キャプション:日本出版販売新業態「文喫」プロデュース


キャプション:福島県棚倉町の明治三十四年から100年以上続く叶や豆冨 大椙食品のプロモーション

野崎:よくジョブ型・メンバーシップ型という働き方が対比的に語られますよね。ジョブ型は、これをやると決まっていて、仕事に対して人が割り当てられる雇用の形。 どちらが良い悪いではないし専門性を高めてハマってその先で到達できる真理もいっぱいあると思う。僕個人は真逆のスタンス。さらにいうと、モノサシなき依頼が大好き。クリエイティビティを高める手段として、やったことのない事をやったり、見たことのないものを見にいったり、新しい刺激へ向かうタイプ。だから僕個人は「決まってないとできません」じゃなくて「決まってないから何でもできるんじゃん!」がワークスタンス。

横石:マニュアルで動くなと。

野崎:そうそう。「何をやったらいいですか」という言葉は好きじゃない。いろいろな刺激を受けながら、いかに想像のつかない方向へ自分たちを成長させられるか。そういうことを仕事の根幹にしておきたいし、一緒に働く人も楽しめる人たちであってほしい。

———- 個人と組織の接点として、採用をどのように捉えていますか。

横石:先程のワークスタンスを踏まえると、会社の中に人事部があるが故にいい人材が取れないというパラドックスが起こっているとも言えます。現場が新しくメンバーを採用したいとなれば、まっさきに人事部に頼るわけです。

野崎:確かに、人任せじゃないけど。

横石:役割分担の弊害とも言えます。もし人事部がなくなったらみんな必死で探しますよね。

野崎:そりゃそうです。

横石:今の日本において、働き方の諸悪の根源は新卒一括採用にあると思ってて。就職というのは会社ないしは職業と個人の個性・能力とのマッチングですが、個性が尖っていたらいたで「おまえは出過ぎだ」みたいな、出る杭は打たれることが社会人になる入口で当たり前のように待ち構えているわけです。結果、会社にとって扱いやすい人材ばかり集まってしまう。

野崎:組織や会社に可能性を与えてくれる人に来てほしいから採用活動をしているはず。実績のない新卒の採用はそもそも、会社の可能性を獲得しにいっているのに扱いやすい人を採る意味って……。

横石:スマイルズでは新卒採用をされましたか?

野崎:クリエイティブでは2021年新卒を3名採用しました。企業側だけ一方的に見るのはフェアじゃないので、リモート環境を活かして逆面接を取り入れました。僕を学生さんが面接して、採用・不採用を決めてもらうんです。

横石:野崎さんが不採用になることもあるんですか。

野崎:一応、ほとんどの学生さんから合格もらえました(笑)。

横石:おもしろい。採用の基準は何かありますか?

野崎:採用サイトに書いた条件は「意味が分からないこと」です。僕のモノサシの範囲内に収まらない人に来てほしいと思って。僕が意味わかるってことは、今のメンバーにとっても刺激にならないし。

働き方は生き方だ。デザインするコツ

———- 私たちは週5日、1日のうち8時間は働いて8時間は睡眠とすると、働き方はイコール生き方といっても過言ではありません。働き方や生き方に向き合い、デザインするコツはありますか。

横石:多くの人はコース料理が好きだと思うんですよ。有名な星付きのレストランに行って座っていれば確実においしい料理が並んで、安心して食べることができる。これ、まさに安定した企業に就職することと同じ。でも、僕がオススメしたいのはお好み焼き屋に例えられる人生。注文したら鉄板の前にドーンと素材だけが出されて「はい、どうぞ!」みたいな(笑)

野崎:自分で混ぜて、焼いて、ひっくり返してね。

横石:そうそう。お好みっていうぐらいだから、いっぱいトッピングできるメニューがあって、さらに組み合わせも無数にあってね。キャリアの価値観として、これまではパッケージ化されたレストランのコース料理のようなキャリア像が良しとされていたかもしれないけど、お好み焼き屋さんでつくるお好み焼きのように、より自由にそのプロセスまでを自分のお好みのままに楽しめるといいですよね。

野崎:スマイルズはお好み要素強いのかもしれない。

———- 野崎さんは働き方、生き方をデザインするコツはありますか。

野崎:出来心はすごい大切だなと、横石さんの話を聞いて確信しました。自分でもまだ本当の強い意志や熱量は分からないけど、心の根源には隠れた本心らしきものが確かにあるわけで。僕たちは今のこの瞬間の発露、本心の中から表に出ようとするものを大切にしたいんですよね。全てに当てはまるとは言えませんが、本物に成りきれていない事業やサービスは、落とし込むときに自分がそこにいないから。

野崎:特に新しいことをやるときは正解が分かりません。起業家たちはどれだけストラテジーを描いても、やったことがないから分からない。眉唾の数字をはじくか、もしくはやりたいからやっている。出来心で先にやってから後で説明しに行くほうがよっぽど説得力があると思う。

横石:世界的に成功した起業家の思考を体系化すると、どうやら目的先行型ではなく、自分の持っている手持ちのカードを出して出して、出し切った先に成功がある手段先行型が多いとされています。これ、野崎さんの話していた通りで、成功を後から解釈してるんですね。

野崎:そうなんだ。やってるときは何の意味があるのか、その時点では分からない。でも確実に、心の揺さぶりに気づいちゃった時点で、やってみたくなるんだと思う。

横石:Facebookのマーク・ザッカーバーグにしても、今の形を思い描いて、計画を立てて逆算してきたわけでは決してなくて。出来心があったからこそ、生まれてきたものはこちらも心が揺さぶられることが多い。

野崎:何かできることからやって、とにかくやってって。その繰り返しでハッと我に返って見返したら形が出来上がっていたという感じが理想ですよね。

ハタラキビトへ、お好み焼きと出来心

———- 最後に、やりたいことは分からないけど一歩前に踏み出したい、これから何かやってみたいと考えるハタラキビトに向けて、一言よろしくお願いします。

野崎:出来心の話に戻しちゃうけど、ちっさい衝動を「こんなの信じちゃ駄目だよな」とか不安になることは誰しもあります。でも、本当はそこからしか始まらない。
強い意志を持つには大げさな理由やターニングポイントが必要なのか?確かに強いきっかけがある人は勝手に動きはじめてる。でないとしても変わりたいなら、むしろ自分に「これほんとにやりたいことか?」なんて問う前に、出来心で動いてみたらいい。一歩踏み出すんだ!と力まなくても、普段歩くときみたいに踏み出せばいい。考えるんだったら行動したほうが絶対早いから。

横石:野崎さんはずっと一貫して言ってますよね、行動したほうがいいって。

野崎:僕はライフスタンスは変わるかもしれないけど、ワークスタンスはきっと変わらないだろうなぁ。横石さんからも一言、どうぞ。

横石:これからますます組織から個性の時代になります。自分の個性や感受性を育てることに意識的にならない限り、働き方や生き方をデザインするのは難しい時代とも言えます。ですので、ぼくが個性を育てる第一歩目としてオススメするのは、お店でコース料理を頼まないこと。自分で選ぶ。それを繰り返していかないと個性はいつまでたっても見つからないし分からないと思うんですよね。

横石:洋服もネクタイ選びも一緒です。ファッション雑誌を見てスタイルを真似て、買うのは楽なんです。例えば直感でいいなと思った店に飛び込んで、店主と話しながら「いや、これじゃないんですよ」とか「これほしいんですよ」みたいな対話から個性が生まれてくると思うんです。というわけで、千駄ヶ谷のジラフのお店『WORK TO SHOP』に来て、オーダーメイドのネクタイ1本でも作ってみてはどうですかね。

野崎:すごいタイミングでの宣伝!そこにオチがあったのか。今日はありがとうございました。