TiE UP! Vol.2
「“ルールを持たない”ということ自体が、僕の中のルール。」

TiE UP! Vol.2<br />「“ルールを持たない”ということ自体が、僕の中のルール。」

10代からプロスケーターとして活躍し、21歳でアパレルブランドのデザイナーに就任、28歳で独立しAlexanderLeeChangをスタート。そして会社経営者という顔を持ちながら、今もなお、毎朝スケートボードに乗る。TiE UP!Magazine vol.2のハタラキビトは、ファッションデザイナーのアレキサンダー・リー・チャンさん。
何かに縛られるわけでもなく、自分自身の心地よさを知り、素直に生きることで見出してきたリー・チャンさんのこれまでの道のり。私たちgiraffeが出会ったのは、もう13年ほど前のこと。リー・チャンさんとコラボレーションしたネクタイを作ったことがきっかけです。 コロナ禍で先行きが見えにくい今こそ、久しぶりにリー・チャンさんにお会いしたくなり、渋谷からほど近い松見坂にある彼のショップを訪れました。

今回のインタビュアーは、giraffeのデザイナー・中村裕子。ともにデザイナーであり、経営者(中村裕子は自身のブランド「my panda」をプロデュースし、会社経営もしています)という立場だからこそ聞きたいお話など、ざっくばらんに伺ってきました。リー・チャンさんのお話は、クリエイターだけでなく、今の時代を生きるビジネスパーソンにとっても、とても背中を押してもらえるような言葉に溢れていました。

自分が着たい服から、大切な人に着せたい服へ。
コミューンの拡がりとともに、デザインの幅も広がってきた。

中村裕子

中村裕子(以下、中村)

お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。

リー・チャン

アレキサンダー・リー・チャンさん(以下、リー・チャン)

久しぶりだね~。よろしくお願いします。

中村裕子

中村

さっそくですが、最近はどんなお仕事されているんですか?

リー・チャン

リー・チャン

洋服のデザインです(笑)。2003年からブランドをスタートしたからもう18年ですね。あとはPOPUPショップをやるときには、そういうときはうちだけではなくほかのブランドさんにも声をかけて一緒にやったりもするので、そういう企画をしたり、ビジュアル作成したり……なんでもやってます。
最近は、洋服のデザイン以外に、雑誌『GO OUT』で「ALEX飯店」という連載を始めたので、その記事を書いたりもしていますね。その連載企画のロゴも自分で作ったし、レシピを考えて料理もやっています。

中村裕子

中村

幅広くいろんなことやっていますね。実際に洋服のデザインをしている時間ってどのくらいなんですか?

リー・チャン

リー・チャン

僕の場合は、デザインを描いたり、実際手を動かしている時間はすごく短い。手は動かしていなくても、ずっとリサーチしたり考えてはいますね。頭の中でこういうものがあったらいいな~と考えたり、メモしたりはしておく。洋服の形をデザインもするし、グラフィックもやるし、洋服づくりの全部をやるんだけど、得意なものは早いですね。僕は、形を作るのは得意だから早いんだけど、グラフィックが苦手(笑)。

中村裕子

中村

私、逆ですね~。柄物が好きだし、グラフィックは得意だから早い。

リー・チャン

リー・チャン

僕は無地でシンプルな服も好きですよ。シンプルにみえるけど、シルエットが面白かったり、何気ないこだわりがあるものは好きですね。

中村裕子

中村

もともとは自分が着たい服が欲しくて、ブランドを立ち上げていますよね?

リー・チャン

リー・チャン

ブランドを始めたときはそうだったけど、自分が着たい服って自分だけの世界でしかない。でも恋人に着せたい服ってなったら、二人称になるじゃないですか。そうやってコミューンを拡げていけばつくるものの幅も広がっていく。そういう考え方に変わっていったら、だんだん売れるようになっていきましたね。ブランドを始めて5年目くらいですかね。

中村裕子

中村

わかります!giraffeも少しずつ周りの人につけてもらえるデザインとかを意識しはじめたのは、5年目くらいでしたね。それまでは好きなようにやっていて、作りたいものがたくさんあったので、展示会で300型とか出していたんですが、経営的にはそれでは厳しい部分もあって。そのバランスって大事ですよね。

リー・チャン

リー・チャン

自分でこれがいいって思うものを作って展示会をやったときに、すごく仲のいい友達が来てくれて、「リーくんのこと好きだけど、買える服がない。」って言われて(笑)。そのときに、応援したいと思ってくれる人がいるのに、提供できるものがないということに気づいたんですよね。

リー・チャン

リー・チャン

最近では、営業のスタッフと次どういうものを作ろうかっていう企画会議をするときに、「これ、個人の趣味出しすぎです」とか「ALC(ブランド名Alexander Lee Changの略)っぽくないです」とか言われて、「ALCっぽいってどういうこと?僕が描いてるんだけど(笑)」みたいなこともある。

中村裕子

中村

とても素敵な関係性ですね。そういうスタッフの意見には耳を傾けるんですか?

リー・チャン

リー・チャン

ブランドやお客様のことを想って言ってくれる意見なので、もちろん耳は傾けます。うちのメンバーは僕入れて3人なので、最後は多数決で決めたりしますね(笑)。

日々さまざまな選択をしていく中で、フランクにあらゆる選択ができる自分でいたい。
その秘訣は、身軽でいること。

中村裕子

中村

コロナ禍で何か生活に変化はありましたか?

リー・チャン

リー・チャン

朝型になりましたね。なかなか夜出歩きづらい状況もあったりするので。朝6時ごろ起きて、朝ごはんを作って食べて、家事をして、それから2時間くらいスケボーしてから出社する。週末は最近はキャンプに行ったり。遊んでますね(笑)

リー・チャン

リー・チャン

仕事をするため(お金を稼ぐため)に生きていたくない。そもそも好きなものをつくりたくて始めたし、心が豊かでないといいものが生まれない気がして。

中村裕子

中村

すごく分かります~。コロナ禍ということもありますが、複雑性が増す世の中で、5年後10年後のキャリアや暮らしに不安を感じる方もいると思いますが、リー・チャンさんが大事にしている価値観について教えてください。

リー・チャン

リー・チャン

明日死ぬかもしれないじゃないですか。将来のことも考えてないわけではないですけど、そこから逆算して、そのために何かをするということはなかなかないんですよね、僕は。それよりも今やるべきことをやって、それで身近な人が喜んでくれたらそれでいいなと思う。
違う視点で考えてみると、5年後10年後どうなるかわからない不安っていうのがあったときに、じゃあ明日生きているかどうかの不安ていうのはないのかな…って。明日死ぬかもしれないと思ったら、今日何をしたい、何をすべきかっていう日々の選択があって、結局はその積み重ねが大事かなと。

リー・チャン

リー・チャン

もちろん、将来自分はこうありたい、そのために具体的にやるべきことを洗い出して、順序立ててやっていくということは素晴らしいことだと思います。何が素晴らしいかって、そのために行動しているということが大事。考えることが重要なのではなくて。一つ一つ行動をしていくと、またその時点での選択があり、そのときに自分がフランクにあらゆる選択肢の中から次の道を選べばいいし、その選択の自由度は自分で持っていたいなと思う。

中村裕子

中村

なるほど。

リー・チャン

リー・チャン

僕、去年引越したんですね。これまでにも引越しはしてきましたけど、今回新たに家を借りようと思ったときに、狭い家にしようと思ったんですよね。冷蔵庫とかも小さいものにしようと思って。

中村裕子

中村

なぜですか?

リー・チャン

リー・チャン

彼女の影響なのかもしれませんが(笑)。そこにしか入らないものだけでよくない?って思ったんだよね。ストレージがあればあるほど、人間て詰め込んでいくんで。僕自身結構そうやって詰めてしまうタイプなんで、今は、どんどん持ち物を減らそうと思っていて。家の調理道具はキャンプで使う調理器具を使えばいいなと思って、それで料理しています。そうやってものを減らしていくと、固定費も減ったり、なにかあったときに身軽だから動きやすいんですよね。

中村裕子

中村

身軽って、今の時代に合っている気がしますね。さきほど仰っていたように、なにか行動をして選択をするときに、心も身体も身軽な方がよりフランクな選択ができる気がしますね。

リー・チャン

リー・チャン

ある意味、アパレルのものづくりと対局な話なんですけどね(笑)

中村裕子

中村

すごく分かります。誰かを喜ばせるためのものだけを作りたいから、私もmy pandaではなるべくものを作らないようにしようと思っていて、独立してからは、基本を受注生産にしているんですよね。本当に欲しいと思っている人に届けばよくて、余ったものをセールして売るのは嫌だから、最低限しか作っていないんですけど、最近時代的にもそういう価値観の人が増えてきたような気はします。

ルールを持たない。ということ自体が僕の中ではルール。

中村裕子

中村

最後に、お聞きしたいんですが、プロスケーターとして活躍しはじめた10代から今に至るまでに経験してこられたさまざまな「小さな一歩」や「大きな決断」があったと思います。リー・チャンさんにとって、今につながる一歩だったな~と思えることやそのときの選択において大事にしてきたことってありますか?

リー・チャン

リー・チャン

う~ん、なんだろうな……僕の場合特殊なんで、スケボーをやっていて洋服を始めたじゃないですか。そもそも服が好きだからやった、というシンプルな話なんですよね。それをやっていく中で、スケボーカルチャーだけでなく古着カルチャーとか、あとはアパレルのコレクションを見るのも好きだったし、いろんなものを見てきて、あまり自分の中で「これってこういうことでしょ」というルール(固定観念)みたいなものってないんですよね。“ルールを持たない”ということ自体が僕の中ではルールですね。それは大事にしてきてよかったなと思います。

中村裕子

中村

とても素敵ですね。ルールを持たないからこそ、軽やかな選択ができたり、自分の想像を超えるような出会いがあったりするのかもしれないですね。
久々にお会いたリー・チャンさんのお話は、いろんな方にとってヒントになるようなキーワードがたくさんありました。ありがとうございました!

■Profile:アレキサンダー・リー・チャン

アメリカ・サンフランシスコ生まれ。プロスケーターとして活躍し、2004年SSよりブランドAlexanderLeeChangを立ち上げる。2012年にはFLAGSHIP SHOPとなるSHOP2[Ni]を千駄ヶ谷にオープンし、2013年ブランド初となるランウェイショーを渋谷宮下公園にておこなう。2015年カナダのバンクーバーにてブランド初の海外ランウェイショーをおこなうSHOP2[Ni]は渋谷・松見坂エリアに移転し、「つながり」をコンセプトに、洋服だけでなく、スケートセクションも併設し、ジャンル問わず、お店では様々なイベントが開催されている。ストリートを軸にしながらも独特のセンスから生み出される洋服は、様々なアイデアが凝らされたものも多いが、自由で自然体な服には根強いファンが多い。

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