TiE UP! Vol.3「自分が楽しいこと、相手が喜ぶこと、この2つを優先してやっているだけ」

TiE UP! Vol.3「自分が楽しいこと、相手が喜ぶこと、この2つを優先してやっているだけ」

ユニークでデザイン性の高いプロダクトを提案するブランド「amabroや、“旬のアイデアを、新鮮なまま伝える”をコンセプトにした中目黒にあるショップ「BRICK & MORTAR」などを手掛ける村上美術株式会社。アートとデザインの垣根を越えて、日常の中に溶け込む作品をあらゆる形で発表し続ける同社。

TiE UP!Magazine vol.3のハタラキビトは、同社代表であり、アーティストの村上周(むらかみ あまね)さん。

コロナ禍でも見る人を勇気づける作品を発表し続ける周さん。そんな周さんにお会いすべく、中目黒からすぐの「BRICK & MORTAR」を訪れました。

今回のインタビュアーは前回に引き続き、giraffeのデザイナー・中村裕子。ともにものづくりの最前線にいながら、経営者(中村裕子は自身のブランド「my panda」をプロデュースし、会社経営もしています)でもある立場だからこそ共有できるお話など、ざっくばらんに伺ってきました。

村上周さんのお話はものづくりをするクリエイターだけでなく、今の時代を生きるビジネスパーソンにとっても、シンプルで大事な気付きに溢れていました。

社会の小さな変化を作品を通して表現する。
そのときどきの記憶を僕なりの伝え方で記録したい。

中村裕子

中村裕子(以下、中村)

久々にお店に来ましたが、植物も多くてワクワクしますね。今日はよろしくお願いします。

村上周

村上周さん(以下、村上周)

久しぶりだよね。うん、よろしくお願いします。

中村裕子

中村

早速ですが、今回giraffeとのコラボレーションで、ネクタイの上にシルクスクリーンプリントを施していただいていますが、どんな想いで引き受けてくださったんですか?

村上周

村上周

ものづくりをしている僕らは普段地球の資源を削って、プロダクトを開発しています。そうして生まれたプロダクトもどうしても売れ残ってしまったり、世の中に出なかったサンプルなどがあると最終的には焼却処分しないといけない。焼却処分の過程では、ダイオキシンの問題や二酸化炭素の排出などもあり、これはプロダクトを作る業界の問題のひとつだと思っています。

中村裕子

中村

私もそれは感じています。

村上周

村上周

そういったものに対して、普遍的なアートをプラスすることで、大切にとっておく・残しておく・捨てなくする、ということをテーマに『OUT OF STOCKS』というシリーズで作品制作を行っています。今回もその制作の一環でして、一つ一つ意思をもってデザインされたgiraffeのネクタイにおいて、お客さんのもとに届かなかったアイテムにシルクスクリーンで上書きして発表することで、再びお客さんのもとに届けることができたり、プロダクトに対して考えるきっかけになればと思っています。

中村裕子

中村

なるほど。眠ってしまっている在庫(STOCK)にアートを付け加えることで、もう一度違う形で光を当てるということですね。具体的にはどういった言葉をプリントしているんですか?

村上周

村上周

僕がやっている活動の名前である「OUT OF STOCKS ART SHOW」であったり、戦争をテーマにした「戦争をせずにアートを作ろう」という意味の「MAKE ART NOT WAR」という言葉などをプリントしています。僕のアート制作では、世の中で起こっている微妙な変化をちょっと斜めの角度から皮肉ってみたり、社会の微妙な変化を逆手にとって表現に落とし込んだり、食いつくというか……アーティストとして発信できる言葉を紡いで描いていくことを意識していますね。

中村裕子

中村

周さんのアートは社会の変化に対して描かれるものが多いですが、そういった言葉や表現というのは、日常生活の中で思いつくのですか?

村上周

村上周

ふと思いつくこともあるし、ある程度下調べすることもありますね。1年前にブラック・ライブズ・マター(※1)があった時もアートを制作したんですけど、まず僕は人種問題や差別とはどういうことかを調べてから制作するんです。

それで調べていくなかで、差別が生まれる背景はさまざまなんですよね。ブラック・ライブズ・マターにおける問題は肌の色の違いによって生まれる差別というポイントに絞って、スキンカラーをモチーフにした作品を作りました。交じり合わない4つのカラーが1つのフレームの中では共存していかなくてはいけないっていうことをイメージして作りました。 ※1)ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter、BLMと略される)とは、アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動のこと。

中村裕子

中村

こうして、4色のパレットシリーズが生まれたのですね。

村上周

村上周

インターFM897でDJの松浦俊夫さんが「Tokyo Moon」というラジオ番組をやっています。その番組の企画で、毎回彼が選曲するリストを僕が聴いて、そこからインスピレーションを受けた作品を作っていて、週に1回の作品作りを始めてもうすぐ1年になりますね。

中村裕子

中村

1年間ですか?すごい…

村上周

村上周

そう(笑)1年間近くやっていると、音を通して、彼の伝えたいことや、社会の微妙な変化を感じるわけですよ。彼は世界中のミュージシャンの曲をつなげて、1時間で紹介しているんだけど、僕は彼の表現を色に落とし込むことをやっていて、その社会の微妙な変化を作品として残していくことが僕自身のアーティストとしての役割だなぁと使命感もあったりします。
ブラック・ライブズ・マターの時もそうなんだけど、その当時の記憶を僕なりの伝え方で記録したいなと思うんですよね。

旬のアイディアを新鮮なまま伝える。
きっかけはBRICK&MORTARという場を設けたこと。

中村裕子

中村

周さん、アーティストとしての活動はもう結構やられていると思いますが、村上美術(株)にしてからどのくらいですか?

村上周

村上周

法人化して村上美術(株)になってからは11年ですね。でも、活動自体は来年で25年です。

中村裕子

中村

すごく長くやられているんですね。これまでで印象に残っている決断や出来事はありましたか?

村上周

村上周

この「BRICK&MORTAR」というお店を設けたのはよかったですよ。満を持して、ここにお店を設けるという決断をした感覚はないんですけど、いろいろなタイミングが重なって、このBRICK&MORTARという場所へ導かれたと思っています。こういうきっかけはすごく大事だなと思うんです。

中村裕子

中村

周さんにとって、それはどんなきっかけになったんですか?

村上周

村上周

ファッション業界にも関わったことがあるけど、業界では洋服の企画を考えても、半年後に展示会、そのまた半年後に販売なんですよね。なので、一年後に自分の作品が世に出ることになります。

中村裕子

中村

私も今、来年の夏のコレクションを考えています(笑)

村上周

村上周

そう、でも世に出る頃にはちょっと自分の中での鮮度は低くなっているんですよね。世の中に出た時には、自分はもう飽きてんのになぁって思うことが多くて。

中村裕子

中村

わかります、私もファッションの世界は販売までのスピードが遅すぎるって思います。

村上周

村上周

一方で、寿司屋さんとか八百屋さんとかって、旬のものを鮮度が良い状態でそのまま出すでしょ。同じようにアイディアが生まれた時も、旬のアイディアを新鮮なまま伝えたいんですよ。すぐこの場でみんなにバーって見せたいんです。このBRICK&MORTARができてからは、店内で制作して、そのまま店内に飾る。この机一つ分の距離で自分を表現しているわけですよ。このスピード感で表現ができるようになったのはこの場所にお店を設けたのがきっかけですね。

中村裕子

中村

実は、私も同じようなこと感じていました。コロナ禍になってから、私自身がやっているアパレルブランドの「my panda」の発表の仕方も変えました。展示会で初めてお披露目するものだけではなく、作ったらすぐに写真を撮って、SNSなどにUPして販売するものもあります。でも、そのスピード感って、今の時代だからこそ出来るし、はまるのかなって思っていて。刻々と変化している今だからこそ、人によっては一週間ごとに取り巻く状況が変わったりとか、心の揺らぎがあるから、「こういう時はこういうものがほしいなぁ」とか、その心情に合わせて商品を作ることも必要だと思います。

村上周

村上周

そうですね。僕も外出自粛期間中に「POSITIVE THINKING, POSITIVE MINDSET」というメッセージをインスタグラムで発表したら、「ポスターにできますか?Tシャツにプリントできますか?」っていう問い合わせが止まんなくて、びっくりしました。コロナが始まったころで、みんな少しでも気持ちが上がるものを欲していたのかなぁと思いますね。時代の変化によってみんなが欲しているものが変わるのを感じましたね。

自分が楽しいこと、相手が喜ぶこと、この2つを優先してやっているだけ。

中村裕子

中村

最後に、周さんのように、自分の好きなことややりたいことを仕事にすることに憧れがありつつも、そこに没頭することへの不安や未来への漠然とした不安がある方も多いかと思います。これまで長年やられてきた周さんなりのコツや秘訣はありますか?

村上周

村上周

それも全部その人によるからね。でも、楽しいことを追求していくと、それがちゃんと仕事にもつながっていくと思います。楽しむっていうのも、心底楽しむ、時間を投資するといずれ仕事になっていくんじゃないかなって思います。

中村裕子

中村

とても共感します!

村上周

村上周

あと、喜ぶっていうのも結構口癖で、これだったらあいつ喜ぶかなとか、特定の誰かを喜ばそうって想像しながら、ものづくりをしています。

中村裕子

中村

「喜ぶ」が口癖、たしかに周さんよくいいますよね!

村上周

村上周

そうそう、だから僕は自分が楽しいこと、相手が喜ぶこと、この2つを優先してやっているだけなんです。僕が続けているDJの松浦さんのラジオとのコラボレーションも、流れる曲は全て初めて聞く曲なんです。でもそれはとても楽しくて、頭から離れないくらい感動するんですよ。で、その松浦さんのラジオを聞いてくれている人たちが、番組の感動を落とし込んだ作品を見たとき、「うおおっ」て喜んでくれるかなって想像しながら描いてます。

中村裕子

中村

喜ばせたい一人ひとりの視聴者を想像して、作品を生み出しているのですね。まさに自分が楽しむことと相手が喜ぶことを優先した結果の作品なんでしょうね。だからこそ、周さんの作品は多くの方に響くのかなと思います。

時代の流れに合わせながらも、大切にしている価値観はとてもシンプルな周さん。世の中で起きていることや報道されていることに右往左往するのではなく、自分なりの視点で向き合い、ものづくり(仕事)をする周さんのお話は、多くの方にとっても生きるヒントになったのではないでしょうか。giraffeとしても引き続きさまざまな形でご一緒できたらうれしいなと、改めて感じる貴重な時間でした。

■Profile:村上周さん

1975年兵庫県生まれ。神戸芸術工科大学卒業後、2001年村上周デザイン室(AMDR)を立ち上げグラフィックアーティストとして活動。主にファッション、音楽、書籍などカルチャーにまつわる制作やグラフィックデザインを行う。2010年村上美術株式会社設立。既に存在しているさまざまなジャンルの創造物を見つめ直し、アートの視点から作品を企画し生産するプロダクトブランドamabroを展開。また、2014年にアートやプロダクトなど新鮮なものを自由に、そして柔軟に伝えていくインディペンデント・ショップ BRICK & MORTARを、2016年に“生まれてはじめて受け取る贈り物”をコンセプトとしたベビーギフトのセレクトショップGiving Storeを展開。また、波佐見の窯元20社による「DAYS OF KURAWANKA」や佐賀県嬉野市商工会による「嬉野スタイル-URESHINO Style展」など地方産業プロジェクトのプロデュースや企業、ブランドなどのアートディレクションを手掛けている。1999年より上記活動と並行してアーティストとしてコンスタントに個展を開催している。

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