ネクタイとコーヒーが結ぶ父の日
「たまには一緒にコーヒーでも飲みにいかないか」
普段は会話も少ない父に、
休日の朝、声をかけられた。
「そうだね、いいよ、行こう」
仲が悪いわけではないが、
2人で出かけるなんていつぶりだろう。
そういえば、今日は父の日だ。
途中、自分のお気に入りのショップに立ち寄り、
「ちょっと若作りかなあ」と言いながら、
プレゼントにネクタイを選んだ。
前から気になっていたデザインのネクタイは、
ちゃっかり自分の分も色違いで買った。
行きつけだという老舗の喫茶店で、
コーヒーを片手に、いつになく饒舌な父。
若いころから好きな洋服の話、
仕事の合間にここでこっそり息抜きをしていること、
コーヒーは深煎り派だということ。
「そういえば、今日の服、
おそろいみたいになっちゃったな」
照れくさそうに、
でもとてもうれしそうに笑う父につられて
思わず自分も笑顔になった。
「さっき買ったネクタイ、せっかくだし、着けてみようか」
おそろいコーデで、父とコーヒーを飲む。
そんなことも案外悪くないと思えた今年の父の日だった。