TiE UP! 特別対談
giraffe生みの親・遠山正道×スマイルズ新社長・野崎亙
「行動こそが財産。やるか、やるか。」

TiE UP! 特別対談<br />giraffe生みの親・遠山正道×スマイルズ新社長・野崎亙 <br />「行動こそが財産。やるか、やるか。」

2023年2月9日付で、giraffeをはじめ、コンサルやビジネスプロデュース事業を展開する株式会社スマイルズの代表取締役社長・遠山正道が社長を退任し、取締役社長として野崎亙が就任することになりました。スマイルズにとって、最初の社長交代です。
今回のTiE UP!Magazineは、特別編としてgiraffeの生みの親である遠山とgiraffe事業部長も歴任してきた野崎の対談をお届けします。
スマイルズの新オフィス(取材時は絶賛工事中)で、それぞれが今giraffeに思うことをざっくばらんに話していただきました。二人の会話には、新しい環境に踏み出す人へのヒントが隠れています。

役職は、行動の結果ついてくるもの

ーーー遠山さんが野崎さんにスマイルズの社長のバトンを渡したときの心境を教えてください。

遠山

遠山

手放すことへの寂しさとかは特段なくて、自然とそうなった感じだったね。Soup Stock Tokyoの1号店で私が店長をしていたときはレジも調理もやっていたんだけど、レジも調理も私よりうまい子がいて。店長もそう。だから私よりできる人にバトンを渡していった。突然そうなるんじゃなくて、自然となっちゃうんもんなんだよね。

遠山

遠山

当時Soup Stock Tokyoを立ち上げたときから、インフラになりたいと思っていたの。ブランドを作り上げるなら、自分が描いた作品みたいな感覚を持ちながらも、趣味の個人店ではなくインフラになる、そのためにシステムにしていく必要がある。簡単にはできないことだけど、でもそこをやるのが我々の面白さというかユニークネスなんじゃないかなと。最初はどのブランドでも切っ先を鋭くして“みんなの意思”よりも“誰かの意思”に着目するんだけれど、それを拡げていくには同時にシステムを構築しないといけない。システムにしていくフェーズにおいて得意な人に任せた結果、トップが変わっただけなんだよね。

野崎

野崎

僕は、そもそも社長になりたいという気持ちは全くないタイプでした。でも、スマイルズという会社と自分をずっと一致させながら仕事してきました。僕がスマイルズだったら…と、スマイルズという価値観が同時に自分であるという前提を置いて考えたり行動してきました。だから、スマイルズに自分の一番得意なコンサルやプロデュース業を重ねてみて、コンサルティング・プロデュースファーム「Smiles: PROJECT & COMPANY」の体制を作ったんです。
遠山さんの自然となっちゃう話と近いですけど、僕も「部長にするから頑張れ」みたいなタイプでもない。あなたは既に責任感を持っていて、なんなら責任を取ろうとしている。ということは必然的にあなたにはこのタイトルが必要だねっていう感覚。年齢やジェンダー、能力も関係なく、やっている人にバトンを渡していった方が良いと思っている。そういう考え方のもと、ここ数年、スマイルズと自分を重ねて事業を行ってきていたので、なんとなくタイミングかなと思い「社長になります」って遠山さんにLINEで宣言しました。

遠山

遠山

そうそう。うちは、自分で勝手に宣言しちゃうみたいな“ジブンゴト”を最も大切にしている会社。野崎は最高の状態で手を挙げてくれました。

野崎

野崎

結局、僕はゼロからイチを生み出す人間ではないんですよ。そこは遠山さんと性格が違っていて。既にあるものを一度ばらばらにして、これが一番大切だっていうゼロみたいな起点を見つけて、違うイチを再構築していくのが好きなんです。例えば、家でいうと僕は新築よりも中古の方が好きで。規格化されたものよりも、なんだかへんてこな個人性で作られているものが好き。さらに、そこに自分で全然違うものをインサートしたり、考え方をいれて次のフェーズに持っていくことが好きなんです。そういう性格なので、誰かが何か意見を発した瞬間に突然思考が回転するんですよね。今回スマイルズの社長を引き継ぐときも、何かを守らなきゃって意識はほとんどなくて、自分だったらどこが大切でどこが面白いか、それを自分なりにやるとしたらどうなるのかというのを考えています。

野崎

野崎

昨日思い出したんですけど、遠山さんと昔初めて青山のカフェで会ったとき、スマイルズでどのブランドが面白いと思う?って聞かれて。「giraffeが一番面白いと思います」って答えたんですよ。ネクタイっていう超斜陽産業、しかもかつてより業界も縮小してるこの感じ、だれも注力していないからこそ今われわれらしく磨いたら簡単に輝けるじゃん!ラッキー!みたいな。ビジネス的に成功してるとか急成長の業界とかって実はあまり興味がない。極論だけど、あまり誰も注目してないものの方が楽しくなっちゃうタイプで。誰もやらないから、なんでもできる。昔から思っていますが、電柱とか物置の仕事とかやりたいんですよね。そこにワクワクする性なんです。

大したことないアクションが、あとで大きなきっかけに

野崎

野崎

スマイルズは、どこまでいっても実行が先立っていて、皆そこに信頼を寄せていきます。いっぱい資料をつくるのもいいけれど、まずやってみる方が大事。だからこそ、何か行動している人には必然的に周りの人もタイトルもついてくる。行動こそが、その人の資産なんです。

遠山

遠山

私の話で言うと、自分のことを「新種の老人」って言ってみたり。そこには何の戦略もないんだけど、やっぱり名前を付けてみると自分なりにそこに思考や行動を寄せていったり、メディアが気になって取材してくれたりとかして。言葉にしてみただけだけど、いろんなことがくっついてくるもんなんだよね。実験とも言えるかもしれないけど、アクションを起こすことが大事だね。

野崎

野崎

遠山さんの、「とりあえず“新種の老人”って言ってみた」っていうのはすごく良いですよね。こういうのって、大事(おおごと)にしない方がいいと思うんですよ。そこに意図や意味を変に持ちすぎてスタートすると、それと自分とのギャップで結果的に何もしなくなっちゃう。それこそ書いただけとか、すごく小さくてしょうもないものの方がいい気がする。真っ赤なネクタイしてみたとか、毎日雑草を摘んでみたとか。そういう大したことない方が、むしろあとで大きなきっかけになる可能性がある。

ーーー新しい環境を迎える人へのヒントにもなりそうなお話ですね。

遠山

遠山

そうね。その観点でいくと、新生活を迎える人に向けて自分を取り巻く環境についての話を。社会関係資本なんて言うけど、会社があったり、私の場合だったら新種のimmigrationsというコミュニティや代官山ロータリークラブがあったりとかするんだけど、そういう所属する環境がいくつかあると自分の中に掛算が増えていく。その掛算によって、普段から自分らしさが出てくるんだよね。新しい環境を積極的に取り込んで、自分の居場所を複数持つのは面白いと思うよ。全く違う職業の人ばかりの環境とかでも、掛算の幅が広がっていくんじゃないかな。

野崎

野崎

個人に限らず、giraffeももっと掛算していったら面白くなりそうですね。ネクタイというプロダクトとのコラボを作るというシンプルな掛算だけじゃなくて、たくさんの商売があるビジネスの世界に生きている存在としてのgiraffeなら、さらにいろんな掛算が考えられるよね。こんなことができるんじゃない、いいんじゃないってなったら、あとはやっぱりやることです。やらないのが一番嫌。ちゃんと価値になる取り組みであれば、それをマネタイズすることはあとからでも考えられる。失敗してもいいからやることが大事。やらなかったら何も残らないですよ。

かつてのサラリーマンの格好が、一番個性的になる

遠山

遠山

全然関係ないんだけどさ、今日の夜ポジティブ居酒屋に行くのよ。最初に店主がポジティブ講座をしてくれて、ネガティブが禁止。すごいらしいよ。

野崎

野崎

いろんな酒場がある時代ですね。考えてみたら、giraffeもポジティブになるためにつけるじゃないですか。ポジティブネクタイ(笑)。
社長就任のときに、「よし、スーツを着よう」って思ったんです。スーツ着て、ネクタイ締めてみるかって。スーツを着ている人が少ない環境も多い現代では、それが良い意味で違いになる。3ピースでバッキバキにキメたスーツ姿が、むしろ個性的でいいねって。かつてのサラリーマンの格好が、一番個性的になる。
いざ仕事をしていると、人に覚えられるかどうかってめちゃくちゃ重要じゃないですか。遠山さんは当時でいえばメガネとか、醸し出す独特な空気感とかですごくわかりやすい。100%一発で覚えられる遠山さんみたいな人もいるけど、僕はそうではない。だから自分の得意な喋りで覚えてもらおうとするタイプなんだけど、でもやっぱりそういう意味での服装には気を遣っていて。前職では、バキバキの戦略コンサルなのにアディダスのジャージを着ていたんですよ。そうやって、ポジティブな関係値を築いてきました。この数年、完全に一度も会わずにリモートで物事を進めることも増えた裏で、やっぱり結局のところ人と人で仕事してるんだなっていうことを思い知らされてきました。だからこそ相手にとって“知ってる”人になる必要があるんです。
そう考えると、僕がジャージを着ていた当時は、ユニフォームってみんな同じ穴のむじなですってことを表現するための服だったけど、今はユニフォームもどんどんアイデンティティを取り込んでいい時代。リモートになるとなおさら覚えられないし、今こそ必要なのかもしれません。ユニフォームという概念自体が、面白くなるんじゃないかな。

野崎

野崎

今の世の中ってプロジェクト型じゃないですか。会社内でも外部でも、いたるところでプロジェクトが勃発している。プロジェクトごとに企業同士でも立ち位置が変化するのと同様に、個人でも都度変わっています。プロジェクト型の社会になればなるほど個人は流動的になっていき、その結果個人を繋ぎとめる企業の力はどんどん弱くなっていってる。今は、まさに繋ぎとめる要素が重要なんです。何かを一緒にやってるよと表現するときに、たとえばオンライン会議の壁紙を同じものにしたりしますよね。スマイルズだと無駄にキャップを作ったりします。僕はそれもひとつの意識や共通の共感性という意味で、ネクタイとあんまり変わんない立ち位置だと思っていて。

スマイルズの新卒採用プロジェクトのオリジナルキャップ。

野崎

野崎

壁紙やキャップという風に形があるものでも、形がないものでも集合意思に関与するものって今後増えていくんじゃないですかね。プロジェクトチームの自負を証明するなにかが、どんどん社会に必要とされてくると思います。

息苦しい現代に、giraffeはタイアップで突破口を提示します

遠山

遠山

その当時、サラリーマンが会社や社会に首絞められているようだったから、逆に自分で首をキュッと締め上げて高い視点世の中を見渡そうという思いで始めたのがgiraffeです。ネクタイを売りたかった、アパレルがやりたかったというわけじゃないんだよね。"サラリーマン一揆"というコンセプトを立てて、反骨の気概で生まれたもの。だから、現代のそれってなんなのっていうことを一回ばらして、アートでいえばコンテクストみたいなことに一回立ち戻ってみたときに、giraffeが今差し出すものってなにかというのを考えてみてほしい。ネクタイというプロダクトにこだわらず提示してほしいよね。

遠山

遠山

前にgiraffeでコミュニティ作ったらいいじゃんって話したよね。その名も「首ったけ倶楽部」(笑)。giraffe愛好家のコミュニティで、30人くらいでみんなでネクタイを締めてバスに乗っていろんな観光地にいく。ネクタイ一本で不思議な集団になるよね。
あとさ、giraffeで居酒屋やったらいいよねみたいなアイデアも以前からあったけど、それも面白いよね。新橋かどこかで居酒屋をやって、giraffeを付けてきた人にはたい焼きをプレゼント、とか(笑)。

野崎

野崎

それはtieだけにたい焼き?

遠山

遠山

そう(笑)。例えば、日経新聞と組んでみたりして。株価とかニュースが新幹線のように流れているのを眺めながらお酒を飲む空間。

野崎

野崎

むしろ若い人にとってよさそうですね。勉強しろとか学べって言われるとめんどくさいけど、あの居酒屋に行ったら勝手にスタッフが喋ってくれるみたいな。あんまりわかってないことも教えてくれるし、別にそれを聞く必要はない。それこそ、かつて引退した社長のみなさんがサーブをするとか面白そう。遠山さんも、もちろんシフトインですね。もう引退してるから言える裏話とか、新聞には載せられない話をここでは聞けちゃう。ポップアップでやったら盛り上がりそうですね。

遠山

遠山

日経新聞とgiraffeで一緒になってやれたら面白いよね。居酒屋「社長室」とか(笑)。
あと、ワークマンと組んで洗えるネクタイみたいなのもどうだろう。

野崎

野崎

giraffeって単独で気張って進んでいく必要はないんです。たとえば日経新聞さんとgiraffeがやってみたらこうなった、みたいな感覚の方が合っている。遠山さんがインフラにしたいと仰っていたように、今後はより社会とグリップしていかなきゃいけない。個人の生産性が完全に定量的に測られちゃう現代は、昔よりもなかなか息苦しいわけですよ。そこに、正しいかどうかはわからないけど突破するためのもの、一歩踏み出すためのものをgiraffeが提示していく。その糸口が、まさに“タイアップ”することでしょうね。

(編集後記)
今回のTiE UP Magazineは、絶賛工事中のスマイルズ新オフィスで取材を行いました。まだ何も置かれていないとても開放的な空間で、気持ちの良い日差しを浴びながら、気心知れた二人の話にも花が咲きます。対談中、「そういえば、こういうの面白くない?」とふとしたアイデアの話から、続々と新たなアイデアが飛び出てくるワンシーンも。ケタケタと笑いながら話す二人の様子が印象的でした。野崎がトップになったスマイルズにて、これからも変わらず一歩踏み出す人の背中を押していけるようgiraffe自身もさまざまな行動をしていきたいと思います。今後ともご期待ください!

■Profile:野崎 亙(のざき わたる)
株式会社スマイルズ 取締役社長 兼 CCO

1976年生まれ。京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などのビジネスプロデュースや経営コンサルティングに従事。2011年、スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、「100本のスプーン」のリブランディングや「PAVILION」の業態開発等も行う。さらに、入場料のある本屋「文喫」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。
*受賞歴:「グッドデザイン・ベスト100」「グッドフォーカス賞 [新ビジネスデザイン] 」
*著書:『自分が欲しいものだけ創る!スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング』(日経BP)

■Profile:遠山 正道(とおやま まさみち)
株式会社スマイルズ 代表

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」等を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。
最近では、小さくてユニークなミュージアム「The Chain Museum」、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。さらに、サブスク型の幸せ拡充再分配コミュニティ『新種のimmigrations』を2020年9月より始動。
*著書:『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)、『新種の老人 とーやまの思考と暮らし』(産業編集センター)

卒業・入学・就職・転勤など、春を機に新生活がはじまる方はもちろん、ネクタイを胸元に携えて前向きにがんばる全ての方に、giraffeはネクタイに想いを込めてエールを送ります!

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