TiE UP! Vol.10
いろんな仕事の形があって、いろんなお金の稼ぎ方があって、生き方っていろいろある。

TiE UP! Vol.10<br />いろんな仕事の形があって、いろんなお金の稼ぎ方があって、生き方っていろいろある。

2019年A/Wにローンチされた、女性のためのスーツブランド、ai STANDALONE。その人自身の魅力を引き出す、最高にかっこいいスーツを手掛けています。
そんなai STANDALONEとgiraffeは、2022 S/S collectionの「喫茶ジラフ」を皮切りにコラボレーションを続けています。記念すべき10回目のTiE UP!Magazine vol.10では、ai STANDALONEを立ち上げたデザイナーの並木愛さんにお話を伺いました。
今回のインタビュアーは、giraffeルクア大阪店店長の米地友紀です。

個性×個性が織り成す、新鮮なかわいさを発見。

米地

giraffe米地友紀(以下、米地)

今日はよろしくお願いします。

並木

ai STANDALONE並木愛(以下、並木)

よろしくお願いします。米地さんとは、今年一緒に大阪でイベントをしましたが、去年の展示会はお客様としてきていただきましたよね。

米地

米地

ai STANDALONEさんのことはインスタを見てもともと存じ上げてましたが、実際に見てみたくなって。自分も店頭でネクタイを着けるのでスーツがほしかったんです。でも、コスプレみたいになりたくもないし女性っぽすぎるのも嫌だし…としっくりくるものがなかったんですが、ai STANDALONEさんのスーツは間違いなくgiraffeのネクタイと合うなと。

並木

並木

私もgiraffeさんのことは前から拝見していて。ブランドを立ち上げる前のことですが、友人の結婚式に初めてスーツを着ていこうとしたんです。それに合わせるかわいいネクタイがなかなか見つからず、前日の美容室でも悩んでいた時に、ふと以前ルミネで見かけたgiraffeさんのことを思い出しました。美容室から帰るその足でgiraffeに行ってネクタイを購入したんです。ベーシックながらも色がかわいくて、ネクタイの幅も探していた通りのものが見つかって。だから、最初にgiraffeさんからご連絡いただいたときは『あのgiraffeさんだ、知ってる!』って感覚でした。

米地

米地

まさにご縁ですね。2022 S/S collection「喫茶ジラフ」のルック撮影で、新作ネクタイに合わせるスーツをお借りしたのが初めてのコラボレーションでしたね。女性のモデルを使ったスタイリングがマッチして、女性のお客様が自分自身で着用するために購入されるケースも多く、すごく可能性を感じる企画となりました。

並木

並木

ai STANDALONEのスーツもgiraffeさんのネクタイも個性的なデザインが多いため、喧嘩しちゃうのかなと思っていたんですけど、実際に合わせてみると柄と柄の組み合わせってこんなにかわいいんだ、とすごく新鮮でした。そのあとgiraffeさんと大阪、東京で一緒に合同イベントを行いましたが、米地さんがai STANDALONEのスーツに合わせて抜群にかわいいネクタイコーディネートを組んでくださって。これとこれを合わせてこんな風になるの?とすごく楽しかったですし、お客様も「かわいい!」って喜んでくれましたね。

米地

米地

ai STANDALONEさんのスーツを着たお客様に、ネクタイはどうしますか?蝶ネクタイですか?って聞いたらネクタイ着けたいですってみなさん言ってくださって。普段店頭でお客様と話すと、ネクタイは着けてみたいけど勇気がないという声も聞くんです。でもそういう感情から解放されている感じでしたね。どのネクタイに対しても、抵抗なくチャレンジしてくださるのでスタイリングしていてとても楽しかったです。

並木

並木

初めて会ったお客様同士で写真を撮ったり、お客様自身もとっても楽しそうでしたよね。ai STANDALONEのファンは若年層が多く、かわいければなんでもウェルカムでチャレンジしてみたいという層なんです。また、giraffeさんは米地さんをはじめとしてai STANDALONEのことをよく知っていただいていて、高い熱量でスーツにあうネクタイを選んでくれます。お客様にとってはすごく嬉しいことじゃないですか。

米地

米地

私もいちai STANDALONEさんのファンなんで。私もそれ着ましたよ、とかそれかわいいですね、とかで盛り上がるのがとても楽しいです。良いつながりも生まれていて、本当にいい関係だなと思います。

ただただ楽しむものがファッション

米地

米地

改めて、ai STANDALONEを立ち上げた想いや背景について教えてください。

並木

並木

私は物心ついたときからスカートが苦手で。それは今も変わらないのですが、大人になってフォーマルな格好を求められる場面が増えたときに、スカートを着たくない私は一体何を着たらいいのか…となりました。かっこいいパンツスーツを着たいけど、世の中探してみてもなかなか見つからなくて。納得のいく格好ができたことはありませんでした。特に結婚式は幸せでハッピーな場所なのに、納得のいく格好ができないからテンションMAXでいけない歯がゆさがあって。そしてひょんなことからブランドをはじめることになりましたが、じゃあどんなブランドにしようかと考えたときに、圧倒的に世の中にないものを始めないといけないなと。それってなんなのかなって考えていたタイミングで、さっき話したgiraffeのネクタイを締めた結婚式があって。私がずっと思い悩んでいた世の中にないものってこれだと思い、かっこよくてかわいい女性用スーツのブランドをやろうって思ったんですよね。それが立ち上げの原動力です。

米地

米地

なるほど。立ち上げの原動力は自分の着たい服がないという想いや怒りみたいなものだったんですね。今、ブランドを育てていく中での原動力は何ですか?

並木

並木

今は、アパレル業界が本質的な役割を全うできていないことへの怒りです。本来もっと個性あふれる洋服がお店に並ぶべきだし、着る人にとっての選択肢も多様であるべきだと思うんです。どうしてもマーケティングやトレンドを意識して似たような洋服が並んでしまうことによって、“ただただ楽しむもの”という“ファッション本来の魅力”を届けられていないと感じています。

米地

米地

合同イベントで、結婚式につけていくネクタイが派手すぎないか悩むお客様に、並木さんがよく「おめでとうっていう気持ちを装いで表現することが大事」「結婚式に行く自分も一緒に楽しめばいいんじゃない」と仰っていたのがとても印象的でした。ファッションは楽しいものなのに、人目が気になって自由にできない方も多いです。

並木

並木

SNSのDMとかで、女性がスーツを着て成人式や結婚式に出るのってどうなんですかねと聞かれますけど、自分が着たいものを、自信を持って着るのがファッションなんです。やっぱりそこがまだまだ、ファッションって楽しむことだよという部分を伝えきれていないと思います。洋服をかっこよく着るためには、「自信を持って着る」ということも大事な要素です。いかに着ている人を素敵に見せるかという点でも、この部分をしっかり伝えていかなきゃいけないなと考えています。giraffeさんも同じマインドのブランドなので、私たちがやるべきことをしっかりとやっていかないとですね。

とにかく走り出すことが大事。結果動けなかった、が一番怖い。

米地

米地

並木さんが仕事をする上で、大切にしている価値観ってどんなことですか?

並木

並木

楽しいか楽しくないか、やりたいかやりたくないか。やりたくないことはやりません。洋服をつくろうと志したのが小学校の時だったんですけど、その時からどうせ仕事してお金を稼がなきゃいけないし、人生の三分の一、いやもしかしたら半分くらい仕事に費やすわけじゃないですか、だとしたら少しでもその時間が楽しいって思えるものにしたいと思ったんです。人生って修行なんですよね。そんな人生をいかに楽しく生きていけるかだと思っていて。それでお金がついてきたら一石二鳥!みたいな。

米地

米地

昔から好きなことを仕事にしたいと考えていらっしゃったんですね。好きなことを仕事にすることの怖さみたいなものはありませんでしたか?

並木

並木

それはなかったですね。仕事前提だから結果的にお金がついてこないと意味がないと思っているんで、両立するために何をやるべきかということを考えています。自分が楽しくてもお金がついてこないことってあるじゃないですか。そこのバランスはうまくやっていく必要があるんですけど、それも結局好きなことの結果だから。妥協しなきゃいけない部分とかやりたくないけどやらないといけないこともあって、やりたいことをやるために、やりたくないこともある程度ついてきてしまうこともあるけど、やりたいことに対する想いの方が大きいから気にならないんです。あと自分の好きなことだけやっていたら趣味や自己満足で終わってしまうパターンもありますよね。私はそちらの方を危惧していて、自己満足では仕事になりません。好きなことでちゃんとプロになりたい。自己満足で終わらせないからこそ自分も成長していけると思うんです。

米地

米地

自己満足で終わるか生業にできるかという覚悟ですね。自分が作ったものに値段をつけて世に提示するって怖いことかなと思うんですけど、どうやって自分を前に動かしてきましたか?

並木

並木

そこはね、深く考えないこと。利益率は事務的に決めちゃいます。イギリスの生地を使うことも多く、そもそも原価率が非常に高い。正直あまり利益出ないです(笑)。でも、それでいいかな、ある一定の数が売れるようになればうまく回っていける算段なので。ただ、いっぱい作っていっぱい売るという方法は無駄になるものも多くなるので、生地屋さんや工場さん、お客様でさえ、結果誰にとってもいいものにならなくなってしまう。aiSTAは受注生産にすることで在庫リスクや倉庫代、廃棄にかかる無駄なコストをかけないような仕組み作りにこだわりました。だからこそぎりぎりの原価率設定をして、良いものを良い意味でより安くっていう形でということができています。この値段つけたいから、じゃあどうする?という考え方ですね。その他の余計なコストを削るか、利益がたくさんでなくても長く続けていける仕組みを作るかで価格に合わせていきます。

米地

米地

お話を聞くと、やっぱり強い覚悟が必要な感じがします。

並木

並木

確かに根本ではすごく強い覚悟をもってやってるんですけど、やはりあんまり深く考えないことですね。深く考えると、全部が怖くなっちゃって動けなくなってしまう。結果動けなかったが一番怖いんですよ。とにかく走り出すことが大事。恐怖や不安で、これをやってからにしようとかなってしまうんですけど、それが一番やってはいけないことだと思っていて、準備できていなくてもとにかく走りだすことです。やりながら修正していけばいいし、それが一番勉強になるから。みんなすぐ勉強してからとか、学校行ってからとか言うんですけど、そんなの机上の空論なんで。やりながら自分で学ぶという実地が一番早い。だから、考えない。やるってなったらすぐやります。

米地

米地

結果動けないのが一番怖い。並木さんは昔からこのように考えていたんですか?

並木

並木

そんなこともないですよ。昔から思ってはいたところはあるかもしれませんが、ai STANDALONEのパタンナーである玉置と出会ってそういう価値観が全面に引き出された感じですね。二人でいるといろんなことをたくさん議論します。自分の考えや想いをとにかく口に出してアウトプットすることで自分の思考がまとまるんですよね。鍛えられましたね。

米地

米地

そうだったんですね。大半の人は、動けないことが一番怖い、一番無駄だとなんとなく感じてはいても、実際に動くことはできずに人生を終えていっちゃうんですよね。

並木

並木

あのときこうすればよかったって思うことありますよね。でも私はそれを一番避けたい。あー楽しかった、で人生を終えたい。だから我慢せず、やりたいように生きています。

いろんな仕事の形があって、いろんなお金の稼ぎ方があって、生き方っていろいろある。

米地

米地

今に至るまで、あのとき大変だったなということはありますか?

並木

並木

一番挫折を味わったのは就活です。面接は苦手だし周りはどんどん決まっていくし…結局目指していたアパレル業界には入れず、どこにも就職が決まらないまま卒業を迎えました。でも今となっては、業界に入らなかったことで通例や凝り固まった考え方に染まらない服作りができているので、それがよかったなと思います。挫折と感じていたことが、結果として自分の利益になっています。それと、私自身自分でブランドを作り会社を立ち上げるなんて想像もしていませんでしたし、ましてやそんなこと自分にできるはずがないと思っていました。その時は想像もしてなかったことが5年後、10年後には起こるかもしれない。人生ってそうなることの方が多い。だから目先のことで不安になったり落ち込んだり、あまり悩む必要ってなかったなって。その経験も踏まえて、選択肢は沢山あるんだよということを若い子には伝えたいです。当たり前のように就活をはじめて、会社に入って、それしか選択肢がないと思っていたんですけど。でも大人になって、いろんな仕事の形があって、いろんなお金の稼ぎ方があって、生き方っていろいろあることを知りました。就活うまくいかなくても、やりたいことがあるのになかなか一歩踏み出せなくても全然大丈夫。どう自分らしく生きていくかを考えていけば、自ずと道は拓けてくると思います。不安や世間の目に囚われて、自分のやりたいことや好きなこと、良いところをつぶさないでほしい。むしろ伸ばして社会に活かしてほしいなと。

米地

米地

そうだったんですね。でも、選択肢を知る機会ってなかなかないですよね。

並木

並木

だから、いろんな人と付き合うことが大事です。学生だと同世代の友達やバイトの先輩くらいしかコミュニティがないじゃないですか。そこをもっと広げて、年齢とか、仕事とか、自分とはちょっと違う世界で生きている人や、自分が目指すところにいる人と接する機会を得ることがすごく大事なのかなって今になって思います。私も玉置との出会いで大きく変わりましたしね。そういう人が自分の周りにいてくれるこというのは、自分自身の成長にもなります。普段からどういう人といるかで、かなり変わると思います。

米地

米地

自分自身が見えている景色って実は全然広くはないということに気づくこと、そして違う景色を見に行くためにいろんな人たちとの出会いを求めて行動することって、いくつになっても大事なことだなと、並木さんのお話しを伺いながら感じました。
ai STANDALONEもgiraffeも、その人自身が自分らしくいられること、好きなものを好きなように纏っている人ってかっこいいよねって思える、そういう世の中にしたいという部分においてとても親和性が高いなと思っているので、今後もぜひいろんな形でご一緒できたらうれしいです。
本日は改めて並木さんのお話しをゆっくり聞かせていただき、ありがとうございました。

(編集後記)
社会に対する怒りを発端にブランドを立ち上げて、多くの方にかっこいいスーツを届けてきた並木さん。言葉の一つひとつに強い意思が宿っていて、潔いメッセージとともにどの言葉も私たちにすんなり入ってきます。自分も感じてきたことや無意識的に見て見ぬふりしてきた想いを代弁してくれるような飾らない並木さんの言葉は、私たちが迷い立ち止まったときの道しるべになってくれるのではと思いました。また、二人が合同イベントについてすごく楽しそうにお話しているのがとても印象的でした。ブランドのマインドとしても相性抜群なai STANDALONEとgiraffe。今後のコラボレーションにも、期待が高まります。

■Profile:並木愛
ai STANDALONEデザイナー/ 株式会社タイニーバード 代表取締役
都立農業高校服飾科卒
杉野服飾大学モードクリエーションコース卒
大学卒業後出版社に勤め、2017年退社、独立
2019年 aiSTANDALONE立ち上げ
2020年 株式会社タイニーバード設立

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